新恐竜秘宝館

Vol.20 スピノサウルス史

先日、衝撃のニュースが流れました。「スピノサウルス水棲説」!!。これまでのスピノサウルスのイメージが根底から覆りかねない重大なニュースを、我家がとっている問題満載の朝日新聞は前日の「スマトラトラの赤ちゃん生まれる」よりも小さな扱い。憤慨ついでに言わせてもらえば、竜脚類ドレッドノータス(軍艦マニアには嬉しい、「超弩級」の語源になった戦艦の名にちなんだ名前)発見の話題も一言も報道せず、会う人に「凄い恐竜が見つかったそうですね。」と言われては情けない思いを何度した事か…、まあ恨みつらみはこの位にして、今回は旬の恐竜、スピノサウルスのフィギュアの歴史を振り返ります。

1970年代まで、他の獣脚類同様に、スピノサウルスはこんな姿をしていました(写真1)
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左の骨格図は当時のスタンダードなものですが、改めて眺めると胴長なプロポーションと後肢の小ささに驚かされます。伝説の恐竜専門誌「ディノプレスVol.4」(2001)によると、スピノサウルスの胴椎の椎体の長さはティラノサウルスよりも長いそうなので、この様な復元になったのでしょうか?でもこれではよちよち歩きしかできそうにありませんが…。

この時期のスピノサウルスは知名度が低く殆どモデル化されていません。帆かけ恐竜と言えばディメトロドンの時代でした。その数少ない中で最も印象的なのが、1970年代に発売された「ドムスペースデザイン」の白木の恐竜シリーズの物です(写真2)
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左は我家にあったミニ恐竜シリーズ(と言っても30cmはありますが)のストック。となりは、今回、買わなかった事を大後悔してしまった、本の表紙にもなった大型版で、前肢の指が3本に修正され腹肋骨らしきものも表現されています。右は90年代の、縮小簡略化された紙製の食玩「明治フーセンガム・恐竜図鑑」(秘宝館Vol.16をご覧ください)です。他には、80年代の発売なのでいささか時代遅れの感は有りますが、なかなかよく出来たソフビモデル「ツクダホビー1/30恐竜シリーズ」(写真3)や、70年代としては珍しい四足歩行のフランス「スターラックス」製(写真4)等が有りました。
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80年代、恐竜復元の新しい波が押し寄せるとスピノサウルスもこの様になります(写真5)
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左は当時最先端の恐竜学を紹介した「恐竜の百科」(1985)からのもの。この姿勢で2足歩行はちょっと無理があるのでは?。この本では疑問符付きながら、アクロカントサウルス、アルティスピナクス、メトリアカントサウルスなど神経棘が長い恐竜をまとめてスピノサウルス類としています。
右は「ディノサウルス―恐竜の進化と形態」(1981)からのイラスト。解説では通常は4足歩行としています。歴史的な「ホビージャパン恐竜特集」(1984年4月号)の表紙を飾った荒木さんの作品(秘宝館Vol.61)はこのイラストあたりからインスピレーションを得たのかもしれません。

この時期(80〜90年代)のフィギュアはなかなかバラエティに富んでいて、よつあしタイプも増えています。

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(写真6)以前にも紹介した(秘宝館Vol.62)海洋堂の1/35ガレージキット。

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(写真7)左の二つは「サファリ」製。右の物は正体不明。大きな方で20cm程。

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(写真8)こちらも同じくらいの大きさ。左の二つは「ブリーランド」、右は「シュライヒ」。どちらもドイツのメーカーです。

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(写真9)「ユネスコ村大恐竜館」(1993〜2006)で土産として売られていた物。恐竜ロボットでお馴染みのココロが制作、小さいながらも(10cm程)とても良い出来です。

スピノサウルスの顔がワニ顔になったのは、1998年に近縁のスコミムスが報告されてからで、世間に認知されたのは2001年の「ジュラシック・パークⅢ」だと思われます。実は「ジュラシック・パークⅡ ロストワールド」(1997)の時にも、映画には登場しませんが、スピノのアクションフィギュアが「ケナー」から発売されています。この時はまだ普通の獣脚類顔をしていました。(写真10)
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「ジュラシック・パークⅢ」でスピノはティラノと戦って勝利します。(仇は秘宝館Vol.33で討ちました!)それを指して、今回の新説関連のサイトで、ポール・セレノ博士が「JPⅢは間違っていた。」とコメントしていますが、カツオの群れを蹴散らし、水面から帆だけ見せて船を襲う、正に新説を映像化したようなシーンもあるのを忘れてはいけません。

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(写真11)「ジュラシック・パークⅢフィギュア」。
アクションフィギュアは「ハスブロ」製。手前の小さな2種と紙の骨格は食玩です。

その後、JPⅢタイプがスピノサウルスフィギュアの主流となり今日に至っています。フェバリットの製品はこのホームページでご覧になっていただくとして、その他をかいつまんで紹介しましょう。

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(写真12) 上段左から、大恐竜時代(ハピネット)/恐竜キング(セガ)/ダイノモデルズ(フルタ)/新・旧立体図鑑(カロラータ)/ダイナソーハンターコレクション(エポック社)/CCザウルス(サントリー)/ダイノワールド(カバヤ)/恐竜キング(ローソン限定)/原色大恐竜図鑑(恐竜博2011の会場ガチャポン)

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(写真13) 手前から、「サファリ」/「パポ」/「シュライヒ」。いずれも40cm近くある堂々としたものです。(*シュライヒの現在販売中の物はリニューアルされてちょっと小ぶりで地味になっています。)

その他に、最近日本でも売られるようになった「コレクタ」の大小モデル、高価で手が出ない巨大な「サイドショウ」、百均物や発掘キットから、もちろん「ほねほねザウルス」まで、探せばいくらでも有りそうですが、どれも似たり寄ったりのスタイルになってしまっているのは(近年の他の恐竜モデルもそうですが)いたしかたないところ。その中で少し前のサファリ製のこのモデル(写真14)は、新説と比べても、なかなか“イケてる”のではないでしょうか。小さな方は、最近東急ハンズで90円で買った、4cmの超ミニ動物シリーズのもの。楽しい事に同じ形をしています。
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(写真15)ついついこんな物をでっち上げてしまいました。1500円程で買った「ジュラシック・エッグ」のスピノ骨格を切って貼って削って、恥骨、坐骨、後肢をガチャポン「恐竜骨格ミュージアム」のフクイラプトルの物とすげ替えた物。時間が無く未塗装ですが、手直しした個所がお解りいただけると思います。

水棲恐竜はこれまでにも何度か登場しました。レトロ恐竜の代名詞となった水中ブラキオサウルスやシュノーケル・パラサウロロフスは言うに及ばず、前述の本「ディノサウルス―恐竜の進化と形態」にはこんな珍品も(写真16)
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1972年にフランスで見つかったCompsognathus corallestrisで、解説には指がくっつきあいオールの様に変形していたとあります。
さらに90年代前半には、プロトケラトプス(扁平な尾で泳ぐ)やオヴィラプトル類(貝を主食)そしてアンキロサウルス類までも半水棲だったという説を、金子隆一さんが紹介しています。さて今回はどんな結末になるのでしょうか?巨大ワニ、サルコスクスとの関係も気になりますね。

今これを書いている時点ではまだ発売されていませんが、アップされる頃には書店に並んでいる「ナショナルジオグラフィック日本版10月号」はスピノサウルスの特集(表紙も)です。水棲説の詳細が述べられている筈。楽しみだなあ!!


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田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。